「三現主義」という言葉に代表されるように、トヨタはとにかく現場を重視しています。それは、毎日現場にいた私にとってヒシヒシと肌で感じることの一つでした。店舗のマネージャーや店長はもちろん、地区を担当する責任者や役員など、毎日のように誰かしらが現場に顔を出すのです。そして、手が空いているときに話しかけてきます。特にリコールなどの問題が起きたり、作業中の事故などが起きてしまったときにそれは顕著でした。

では、なぜトヨタの人達はわざわざ現場へ赴き、話を聞きたがるのでしょうか。それは、例えば問題が起きた場合であっても原因が異なっていたり、複数の要因が複雑にからみあっているからだと思います。原因が違えば問題の大きさや影響範囲、影響度も変わるため、当然ながら対処の仕方も異なってきます。

もし実際の原因とは別の原因を特定してしまうと、無駄な時間とお金を費やして的外れな解決策を講じることにもなりかねません。現場に行って現物や現実を見ずに机上で問題を見極め、推測で判断を下そうとすると、どうしてもリスクが伴うことを知っているからだと思います。

一般の企業であっても、たとえば製品トラブルに関するお客様からの問い合わせに対し、よくある問い合わせだからと安易にマニュアルどおりの回答をしてしまうと、後日「まったく解決しないじゃないか!」とお叱りのクレームが来てしまうというケースもあります。明らかに解決策が一つしかないような場合はさておき、有効な解決策を導き出せるかどうかは、問題をどれだけ正確に把握できるかにかかっています。だからこそ、現場を重要にする必要があるのです。

日本の現場力は、現場における人間の創意工夫や問題解決力そのものです。

しかし、安易なITの導入が現場にいるべき人間を現場から遠ざけ、考える力を奪っているように思えます。さらに、経営者に対しても「現場から離れていてもデータで判断できる」などとITはいいます。しかし、データだけで未来が見えるはずがありません。データは過去であり、『今』を知るにはやはり現場に足を運ぶしかないのです。現状のトヨタでも、もちろんITは導入されていますが、やはり現場を最重要視しています。

但し、いくら「三現主義」と言っても常に現場を駆けずりまわっているばかりではよくありません。それこそ効率が悪く時間をムダにしてしまいます。「改善」でもお伝えしたように、汗を流すことが仕事ではなく、付加価値をどれだけ高めたかで仕事の成果を計測しなくてはいけません。現場を中心に考える際、トヨタで言われているのは仮説を立てた上で、現場で検証しろ、ということです。

もちろん、とにかく現場に行くという姿勢も時には大切なのですが、費用と時間が掛かることですので出来ることは事前に準備しておくべきなのです。

現場の「現」という文字の意味は、「玉が見える」ことを表すと言われています。特に「みえる」の意味を表すために「現」の文字がつくられたそうです。これは、現場を重視することで「みえる」ものがある、ということを物語っているのではないでしょうか。

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