横展開を省略した「横展」は、トヨタの思想そのものと言えるかも知れません。良いものはどんどん広めて、全体の底上げを図る。お互いに切磋琢磨をしてさらに良いものにしていく。そんな考え方を軸に、社内的にも社外的にも積極的に横展をしていました。
トヨタではとにかく「知恵」を重視していましたが、自分一人の知恵には限界があります。ですから、他者の知恵を共有するためにも横展が重視されているのです。また、知恵の共有だけでなく、1つのアイデアをずらすことで新たな発想が生まれるケースもあるのです。

それでは、どのように進められているかと言いますと、ひとつは社内の部署同士の情報交換です。大きな企業では当たり前のように行われているかと思いますが、トヨタでは部署同士だけでなく職位同士や出身地同士などで集まる機会もあり、情報交換をおこなっています。また、私のような現場のメカニックであっても、地区ごとや県ごとなど他の営業所との交流機会がよくありました。
一般の人からすると店舗同士の交流は無いように見えるかも知れませんが、地区ごとのレクリエーションや勉強会など、交流機会はわりと多いと思います。

また、改善成果のコンテストや発表会なども数多く開催されていました。私もこの改善成果のコンテストで2年連続全国大会に出場したことがあるのですが、大会の会場では全国の現場で出された改善アイデアがまるで展覧会のようにパネル展示されており、写真を撮ったりメモを取る人たちで溢れていました。まさに全国レベルの大規模な「横展」が繰り広げられていて、圧倒されたのをよく覚えています。
こういった日々の職場という小さな世界から離れた「インフォーマル活動」を通じて、様々な人脈が張り巡らされていきました。そして、情報を共有化するための手がかりが生まれ横展が行われていく、ということになるわけです。

そもそも、トヨタの在庫管理で有名な「カンバン方式」も、元はアメリカのスーパーマーケットがやっていたものをトヨタが取り入れ、独自に進化させていったものです。自社だけで考えるのでは限界があるため、視点をずらして海外の小さなスーパーマーケットをベンチマークし、良いやり方を知りました。
そして、それを社内に横展して浸透させていき、国際的な競争力を持つ企業に成長していったわけです。
横展を中心とする「視点をずらす」という考え方は、どんな仕事、どんな職業でも当てはまるものですから、ぜひ取り入れてもらいたいものです。

 

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