カイゼンが時代遅れではない理由。その進め方と効果の最大化、導入方法

IT化やDX化が急速に進められる昨今では「カイゼンはもう時代遅れ」という声も耳にします。しかし、果たしてそうでしょうか?

結論から言ってしまえば、時代遅れなんてことはありません。どれほど技術が進んでも、カイゼンは世界中で大きな成果を上げてきたように、企業の成長に欠かせない存在であり続けるでしょう。 ここでは、なぜトヨタ式カイゼンが『時代遅れ』と揶揄されるのか、『時代遅れではない』と言い切る根拠はどこにあるのか、そして『時代の先を見据えたカイゼン』とはどういったものなのかを紹介していきます。

時代遅れではないカイゼン活動

カイゼンは時代遅れなのか?意味ないのか?

なぜカイゼンが時代遅れなどと評されるようになってしまったのでしょうか。まずは「時代遅れ」と言われる要因がどこにあるのかを探っていきましょう。

カイゼンはアナログな改善の積み重ね?

カイゼンの手法は、基本的に日々の小さな改善を重ねることで成果を上げていきます。工場などの現場を知る人であれば、工場の壁に大きく貼ってある5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)のポスターや、手作業で貼る部材への表示、従業員一人一人が手書きで行う改善提案書などが身近な例ではないでしょうか。

パソコンで業務にあたる職場でも、いまだに手書きの改善提案書を運用している場合もあり、工場の現場では個人へパソコンを貸与されていないことも多いので、より紙媒体によるアナログなカイゼンが一般的になっています。

そのため、IT化が珍しくない現代にあって、大多数がアナログなカイゼン活動をしていることで、カイゼン=アナログという印象を持たれてしまってもおかしくないでしょう。

カイゼンは抜本的な解決策が欠如している?

トヨタには三現主義(現場主義、現実主義、現物主義)があります。これは、データや経験などをベースにした机上の空論ではなく、現場で現物を見て現実の状況を知り、問題解決を図るという考え方です。

結果として、カイゼンのアプローチは、しばしば現場視点による改善に焦点が当てられることが多くなるケースがあります。会社全体を巻き込むような改善案は現場視点ではなかなか出せないため、「カイゼンでは抜本的な解決はできない」と思われても仕方がありません。

カイゼンは社内でしか通用しないものになりやすい?

カイゼンのプロセスは、往々にして閉鎖的になりやすいという課題があります。現場視点で日々の業務のカイゼンに取り組んでいると、どうしても視野が狭くなり、自社独自の改善案を出すことばかりになってしまうのです。

オリジナリティは素晴らしいことです。しかし、今はあらゆる情報にアクセスできる時代です。膨大な情報を有するインターネット上であれば、現場の問題解決案件と同様のケースで成果を上げた事例や、そのアプローチについてもすぐに見つかるかもしれません。閉鎖的な現場だけを見てアイデアを出すのでは、時代に即した活動とはなかなか呼ばれないでしょう。

意味のある「カイゼン」の本質とは

カイゼンが時代遅れと呼ばれる要因は、カイゼンそのものと言うよりも、カイゼンへの取り組み方だというのは前述した通りです。そもそもカイゼンとは一体何を目指し、何の為に行われているのか、今一度カイゼンを振り返り、時代に左右されることのないカイゼンの本質を紹介していきましょう。

カイゼンが目指すのは“人づくり”

カイゼンで外してはいけないのは、人づくりです。

安全性向上、生産性向上、品質向上、顧客第一主義や従業員の働きやすさなど、カイゼンがもたらす効果はあまりに大きいため、カイゼンを模倣し展開する企業では“その先にあるもの”があまり語られていません。

トヨタ自動車では「モノづくりは人づくり」と言われています。精力的で継続的な活動を通して関わる組織、そして活動に関わる“人間の成長”を目指しているのがカイゼンなのです。

カイゼンとは哲学と活動のこと

もう1つ意味を挙げると、カイゼンとは、トヨタ自動車が掲げる哲学の1つです。『現場』を重視するトヨタの三現主義を体現しながら、トヨタの理念を実現するための具体的なアプローチとその活動を指しています。

ここで言う哲学とは「モノづくりは人づくり」と呼ばれるように、カイゼン活動を通して企業、そして人が成長することです。哲学と具体的な活動、この二つが揃って初めてカイゼンと呼べるのです。

しかし、カイゼンと聞いて多くの人が連想するのは、以下のようなトヨタ自動車の代表的な改善手法の名前ではないでしょうか。

・5S( 整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)
・7つのムダ(加工、在庫、不良・手直し、手待ち、造りすぎ、動作、運搬)
・3M削減(ムダ、ムラ、ムリ)
・カンバン方式
・ポカヨケ
・QCサークル
・5回のなぜ

これらの手法は、トヨタ生産方式(TPS:TOYOTA Production System)の軸でもあるカイゼンの中で用いられる改善手法です。ただ、この手法だけではカイゼンとは呼べません。効果的な手法を用いた活動と、哲学が融合したものがトヨタ式カイゼンなのです。

時代遅れにならないカイゼンの進めかた

先に説明した通り、カイゼンは人づくりを目的としていますので、時代に関係なく運用されます。ですが、アナログなアプローチばかりで時代に則した技術を取り入れていかなければ、『古臭い』『時代遅れだ』と評価されてしまうのも現実です。

ここでは、時代に取り残されないカイゼンの進め方を解説していきましょう。

アナログで時代遅れなカイゼン

ITリテラシーを向上させる

カイゼンは現場を主体に始まります。作業者がやりにくい点や困った事などを挙げて顕在的な問題に取り組む。工程内の不良など、顕在化している問題に取り組む。そういったスタートが、現場ではよく見受けられます。

この小さな問題収集のスタート地点では、アナログなアプローチだけで止まらず、データに着目することが大切です。客観的事実から取り組むことは問題解決の基本ですが、改善の現場では『デジタルで蓄積されたデータに触れるのは一部の人間だけ』といった傾向が見られます。ここが時代遅れの要因となっているのです。

まず、多くの従業員がデータに触れてデータ分析からアプローチするという流れを普及させましょう。その結果としてITリテラシーの向上が図られ、アナログ改善を脱却する糸口となるのです。

ITリテラシーが高まれば、問題解決方法をインターネット上から探すといった流れにも抵抗がなくなってきます。多くの改善手法は、答えそのものが先達によって提示されているケースが多々あるので、インターネットの活用は効果的です。

実は、現場での改善にもこのアプローチは有用です。すでに実績を上げている他企業の改善事例が大きなヒントになることも大いにあるからです。

IT化で柔軟性と迅速性を確保する

昨今のビジネス環境では、スマホの普及に相まって情報伝達が高速になり、市場のニーズも目まぐるしく変化しています。顧客第一主義である以上、カイゼンの進め方にも今まで以上に迅速な対応力が求められています。

例えば、ある材料の材質を検査した「検査成績書」があったとしましょう。仕様が変更されたら部材変更の影響調査のため、過去の検査結果を調べる場合があります。その調査の際、紙媒体の検査成績書だとファイリングして棚に入れられているため、棚まで移動し、該当する月のファイルを探し、ファイルを手でめくって当日の機種で扱われた検査成績書を見つける必要があります。

検査成績書をコピーするならばコピー機へ移動し、ファイルをそのまま使うならファイルごと持ち運ぶ手間があるでしょう。

しかし、検査成績書がデータ化され、検査成績書の運用がIT化されていれば状況は一変します。パソコンを立ち上げてデータベースにアクセスして検索するだけで求めるデータが手に入ります。調査にかかる工数も動線も削減され、さらにファイリングミスなどで文書の紛失や場所間違いなどのヒューマンエラーも予防できますし、コピーも簡単です。

データベースがクラウド上にあれば、スマートフォンでも資料の閲覧が可能になるため、パソコンの起動すら必要ありません。結果、迅速な設定変更や対応力向上へと繋がるのです。

イノベーションを促進する

カイゼンの進めていくには、イノベーションを促進する仕組みが重要になります。従来の方法にとらわれず、新しいアイデアや技術を取り入れて、持続的な改善を目指しましょう。

そもそもアナログな改善が問題なのではなく、イノベーションの不足が課題だと言えます。カイゼンは全従業員が参加する活動ですので、生産工程の現場だけでは成り立ちません。生産現場の人間だけでなく、ITに長けたSEや、経営視点を持った管理職が、現場の人間と共同で活動をしてみてはどうでしょうか。

また、情報漏洩の対策は欠かせませんが、外部の協力者を得る選択肢も非常に刺激的です。立場も能力も、見ている先も違う人間が一同に会せばイノベーションの促進に繋がるはずです。

時代遅れではない先進的なカイゼン活動

時代遅れにならないカイゼンのポイント

『時代遅れ』という言葉に対抗するには、明確なポイントを押さえておきましょう。ポイントさえ掴んでいれば、千差万別である各企業内環境に応用しやすくなり、カイゼンの課題クリアへと辿り着く助けになります。

ポイント(1)IT人材育成

前述した通り、カイゼンでは人づくりを目指しますので、人材育成を軽視することはできません。そもそもIT人材の不足は製造業だけの問題ではなく、日本自体で問題になっています。

経済産業省の調べによれば、WEBを利用して社外コミュニティで自己研鑽している割合は、インドネシア30.4%、アメリカ24.4%に対して、日本はたったの5.8%止まりです。つまり、職場の同僚に「プライベートでITリテラシー向上のために何かしていますか?」と質問しても、何もしていないと答える人が大半であるとデータが示しています。

また、企業が捻出する従業員一人あたりのITに関する研修費用は、日本はアメリカの三分の一程度というデータもあります。

<参考>:経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s03_00.pdf

アナログな人間ばかりで構築される企業が行うカイゼンでは、古臭く時代遅れになるのも無理はありません。『カイゼンを行う従業員のIT力』がカイゼンの基礎を作るのです。

ポイント(2)IT技術の運用と実践

IT技術を活用することで、業務効率化、自動化、コミュニケーションの円滑化などを実現することができます。

現代のIT技術を代表するAIチャットは、Excelの関数やプログラミングのコードなども一瞬で作成してくれます。また、テレワークなどもIT活用の1つです。WEB会議などを行えば、必然的PC操作のスキルが要求されますし、テレワークで柔軟な働き方を導入することで、時間や場所に縛られない働き方が可能になり、優秀な人材確保にもつながります。

IT技術が急速に進化し続ける現代では、ITによる改革はすでに避けられないでしょう。企業が変革を求められたとき、IT技術に触れて仕組みとして活用している企業と改革が起きてから一斉にIT技術に触れる企業では、成果に雲泥の差が出てしまうはずです。

カイゼンとChatGPTを掛け合わせて活用する

時代の最先端技術の1つにAI チャットがあります。AIの新たな可能性を世界に知らしめ先駆者となった存在がChatGPTでしょう。スマホ一つあれば個人が無料で利用できますが、企業や官公庁も正式にChatGPTを活用して業務を効率化しはじめています。いくつか例を見てみましょう。

ChatGPTを活用した問い合わせ対応(横須賀市)

横須賀市では、ChatGPTを活用した「他自治体向け問い合わせ応対ボット」の開発と運用を開始しました。この取り組みは自治体では初めてであり、全庁的な実証が行われ、既に80以上の自治体から問い合わせを受けています。

この応対ボットは、横須賀市のChatGPTの取り組みに関するデータや他自治体からの問い合わせデータを統合し、特定の分野にも対応可能としています。現在はまだ試験的運用ですが、今後は用途を広げ様々な対応窓口として展開する予定です。

https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0835/nagekomi/20230816_jichitaibot.html

AIアシスタントサービス(パナソニック)

パナソニック ホールディングス株式会社は、パナソニック コネクト株式会社が活用するAIアシスタントサービス「ConnectGPT」を基に全社版の「PX-GPT」を開発し、2023年4月14日より国内全社員9万人に対して運用を開始しました。

DX戦略「Panasonic Transformation(PX)」の一環として、ITシステムだけでなく経営基盤の変革を重要戦略として位置づけ本サービスが推進されました。本サービスはMicrosoft Azure上で提供され、ChatGPT3.5をベースにセキュリティ開発されており、自動翻訳機能も搭載されています。

https://news.panasonic.com/jp/press/jn230414-1?_gl=1*1r9cl5b*_ga*MjExMDk2MTYzMS4xNzAzMDM0Mzc3*_ga_K78QDTE73S*MTcwMzAzNDM3Ny4xLjEuMTcwMzAzNDUxNy40MC4wLjA.&_ga=2.191243746.952127600.1703034377-2110961631.1703034377

対話型AIを導入し資料作成の効率化(大和証券)

大和証券は2023年04月18日、対話型AI「ChatGPT」を全社員約9,000人に導入しました。外部に情報が漏れないセキュアな「Azure OpenAI Service」を利用し、情報漏洩のリスクを回避しています。

ChatGPTの活用で英語情報収集や資料作成の効率化、業務時間の創出が期待され、社員全体のアイデア創出も促進する狙いです。大和証券は金融市場のパイオニアとして、新技術導入に積極的であり、柔軟性を持ちながら社会に価値を提供する姿勢を示しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP653467_Y3A410C2000000

時代遅れにならないカイゼンなら原マサヒコの講演を

以上、「カイゼンは時代遅れなのか」「時代遅れにしないためにどうすべきか」などのポイントを解説してきました。

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