トヨタ式5Sの基本と実践法 ~職場を劇的に改善する方法~

5S活動は、職場環境の安全性を高めて業務効率を上げるために、製造業や建設業では積極的に実施されています。

本記事では、自動車整備士としてトヨタの現場で働いていた著者が、在庫管理の5Sの内容や目的・進め方・成り立ちや・メリットやデメリットなどをわかりやすく解説していきます。

トヨタの5S

5Sの基本概念

・5Sの定義

5Sとは、「整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)」の5つの要素から成る職場管理の基本活動であり、作業環境を最適な状態に保ち、効率と安全性を高めるための仕組みです。これは単なる清掃活動ではなく、職場全体のシステムを改善するための一定のルールと習慣を整備する手法として位置づけられています。

この5つの要素は、それぞれが独立しているのではなく、相互に関連し合いながら職場を継続的に改善するサイクルを形成しています。たとえば、整理を徹底することで整頓がしやすくなり、整頓が進むことで清掃の効率も向上します。そしてこの流れを「清潔」に保つためには、「躾」として職場のルールや行動様式を明確に定義し、一定の基準で設定し続けることが求められるのです。

つまり、5Sが求める状態とは、ただキレイな職場を作ることではなく、必要なものが「必要なときに」「すぐに使える」状態を維持し、ムダや危険のない環境を保ち続けることにあります。これにより、業務全体の効率化、事故リスクの低減、そして職場のモラル向上といった多くのメリットがもたらされます。

さらに、近年では「7つのS」として、**安全(Safety)や標準化(Standardization)**を加える考え方もあり、5S活動がより広いマネジメントシステムに統合される動きも進んでいます。

 

・5Sの各要素の意味

それでは、5Sを構成する5つの要素について、それぞれの意味と具体的なメリットを解説していきましょう。

1. 整理(Seiri)

必要なものと不要なものを分け、不要なものを処分すること
→ 無駄な動作や在庫が減り、時間のロスを削減できます。

2. 整頓(Seiton)

必要なものを使いやすい位置に置き、誰が見てもわかるようにすること
→ 探す手間が減り、作業効率がアップ。作業の標準化にもつながります。

3. 清掃(Seisou)

常に掃除をして、職場をきれいに保つこと
→ 故障の早期発見や、異常の「見える化(表示)」がしやすくなり、機能不全の防止にも役立ちます。

4. 清潔(Seiketsu)

整理・整頓・清掃の状態を維持し、ルール化すること
→ 一時的な改善に留まらず、一定の品質を保つ文化の定着に貢献します。

5. 躾(Shitsuke)

決められたことを守る習慣を身につけること
→ 継続的な改善を支える基盤であり、職場全体の意識改革につながります。

これら5つの要素は、言葉として繰り返し使い続けることで、職場全体の意識を共有しやすくなります。同じ表現を用いることで共通認識が生まれ、改善への参加意欲も高まります。

つまり、5Sは単なる作業手順ではなく、言葉自体が職場の文化を育てるツールとしても機能しているのです。

トヨタにおける5Sの重要性

・トヨタ生産方式との関係

トヨタの生産現場では、「ムダをなくし、価値あるモノづくりを行う」ことが徹底されています。これを実現するための思想体系がトヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)であり、その根幹にあるのが5S活動です。

トヨタ式のモノづくりでは、「必要なモノを、必要なときに、必要なだけ」生産するジャスト・イン・タイムという考え方が重要とされます。このプロセスを支えるには、作業場が常に整った状態であり、モノの流れがスムーズであることが必須です。つまり、5Sの「整理・整頓・清掃・清潔・躾」が職場に徹底されていることで、納期ごとの安定供給と高い生産性が可能になるのです。

さらに、トヨタが全社的に取り組むカイゼン(改善)活動においても、5Sは欠かせない土台です。現場のムダを発見し、工程ごとのプロセスを見直していく際、5Sが徹底されていなければ、問題が見えてきません。5Sがあるからこそ、「変化点」や「異常」がすぐに分かり、カイゼンへとつながりやすくなるのです。

時代の変化とともに自動化やDXが進んでも、トヨタ式の基本である5Sの考え方は普遍的な価値を持ち続けています。それは、どんなにシステムが高度化しても、現場の環境が整っていなければ本当の生産性は実現できない、というトヨタの信念を表しているとも言えるでしょう。

 

・5Sがトヨタにもたらす効果

トヨタが5Sを徹底する最大の理由は、単なる整備ではなく、現場の付加価値を最大化するためです。たとえば、部品や工具がいつでも「すぐに取り出せる」状態にあることで、探す時間が不要になり、作業効率が飛躍的に向上します。これは単にスピードが上がるだけでなく、「納期遅延の削減」や「人的ミスの防止」にもつながる、非常に大きな効果をもたらします。

また、トヨタが重視する「見える化(Visual Management)」も、5S活動の成果によって実現されます。例えば、ライン上に色分けされた置き場や、異常が一目でわかる表示などを取り入れることで、問題の早期発見と迅速な対処が可能になります。これにより、品質の安定にもつながっていくのです。

もう一つの大きな変化は、社員一人ひとりの意識の向上です。自身の作業場を「良い状態に保つ」意識が根付くことで、日々の小さなムダや改善点に気づくようになります。この積み重ねが、トヨタの「現場力」として、日本だけでなく世界中の工場で高く評価されているのです。

つまり、5Sは単なる整理整頓の枠を超え、トヨタの競争力の源泉として機能しているのです。

5S活動の具体的な目的

・業務効率の向上

5S活動の主要な目的の一つは、業務の効率化を図ることです。日常業務の中には、気づかないうちに発生しているムダが数多く存在しています。これらを洗い出し、業務フローの見直しによって最適なプロセスに再設計することが、生産性の向上につながります。

たとえば、「探す」「待つ」「移動する」といった非効率な動作が日常的に繰り返されている現場では、それらを可視化し、最も効率的な動線やレイアウトへと改善することが重要です。整理・整頓により必要なモノがすぐに取り出せる状態を保てば、作業に集中でき、仕事のスピードや正確性が飛躍的に高まります

さらに、こうした取り組みを一過性にせず、定期的に業務全体の評価を実施し、改善点を継続的に洗い出す仕組みを構築することが大切です。これにより、変化の激しい環境下でも柔軟に対応できる効率的な経営体制を築くことができます。

5Sは単なる現場改善にとどまらず、経営全体の効率や生産性を高めるための有効なツールなのです。

 

・安全な作業環境の確保

5Sがもたらすもう一つの重要な目的は、職場における安全性の確保です。どれだけ業務が効率的でも、安全が確保されていなければ、事故やトラブルが発生し、業務の継続すら困難になります。

まず第一に重要なのは、現場で働く全員が安全ルールを正しく理解し、日々の仕事の中でしっかり実践することです。そのためには、分かりやすい掲示やルールブックの配布などを通じて、安全意識を職場全体で共有することが必要です。

次に、職場の危険箇所や劣化している設備を定期的に点検し、早期に対応を取ることが欠かせません。5S活動の一環として行われる清掃や整頓の中で、危険の「見える化」が進めば、異常の兆候にもすぐに気づくことができ、事故の未然防止にもつながります。

また、安全な作業環境を継続的に維持するためには、安全教育の定期的な実施も重要です。とくに新入社員や異動してきた社員に対しては、オフィスや工場のルールや注意点を徹底的に教える機会を設けることが、現場の安全性を高める大きなポイントになります。

5Sの徹底によって、単なる整理整頓にとどまらず、仕事の安全性と成功確率を同時に高める職場づくりが実現できるのです。

5Sの実践手法

・整理の重要性

5Sの第一歩となる「整理」は、職場の効率化と安全性向上の出発点です。まず大切なのは、整理の目的を全員が正しく理解することです。それは、今の作業に本当に必要なモノと、そうでないモノを見極め、不要なモノを徹底的に排除することにあります。

職場には気づかないうちに「念のため置いておくモノ」や「いつか使うかもしれない書類」など、ゴミとは言えないまでも使用されていない物が蓄積しがちです。こうしたモノを放置しておくと、探す時間が増えたり、動線が妨げられたりと、ムダが生まれてしまいます。不要なモノ=ゴミと捉え、積極的に解決していく姿勢が必要です。

また、整理と整理整頓の違いをしっかり理解し、重要性を周知することも欠かせません。整理は「要・不要の判断」、整頓は「使いやすい配置」です。特に5S導入初期では、全員にこの違いがわかるよう教育することが継続的な改善活動につながる鍵となります。

整理の徹底が進めば、職場がすっきりとし、モノの流れや仕事の流れも見えてくるようになります。5Sの中でも、最も注目すべき基本であり、他のステップの基盤となる大切な活動です。

5S活動における整理についてさらに詳しく知りたい場合は、下記の記事をご覧ください。

 

・整頓の具体例

「整頓」は、必要なモノを、必要なときに、すぐに取り出せるように配置することを目的とします。そのためには、まず整頓の方針を明確にし、誰が見てもわかるルールを決めることが第一歩です。

たとえば、工具を戻す位置に輪郭を描く「シャドーボード」の導入は、よく知られた整頓の方法です。このように視覚的にすぐわかるようにする工夫が、ムダの削減に大きく貢献します。

また、整頓を行う際には、「どう配置すれば作業効率が上がるか」という視点で詳細な基準を設けることが重要です。たとえば、「使用頻度が高いモノは腰の高さに」「重量物は下段に」など、具体的なルールをチームでまとめておくことで判断が一貫し、効率も上がります。

整頓の成果は、図解や写真を用いて視覚的に共有すると理解が早まり、現場全体の意識改革にもつながります。整頓は、単なる「並べ替え」ではなく、ムダを省き、現場力を高めるための戦略的行動なのです。

トヨタの5Sの整理整頓

 

・清掃を行う意義

5Sにおける「清掃」は、単なる掃除ではなく、職場を正常な状態に保つための大切な活動です。まず再確認すべきなのは、清掃の目的です。それは、汚れを除去することを通じて、異常を早期に発見し、トラブルを未然に防ぐことにあります。

清掃を習慣化することで、設備の小さな異常や不具合に気づきやすくなり、結果的に生産性や安全性の向上につながります。また、清潔な環境は働く人の気持ちにも良い影響を与え、モチベーションの向上やチームワークの活性化にも寄与します。

さらに、清掃には「現場を大切にしている」というメッセージを含む意味もあります。職場を清潔に保つことが会社全体の文化を表し、顧客や来訪者に良い印象を与えるという点でも重要です。

具体的な清掃方法としては、「汚れはどこに、どのくらい、どんな頻度で発生するか」を把握し、日常清掃と定期清掃を分けてルーチン化するのが効果的です。このように、目的に沿った清掃を通じて、目指す職場の理想像を明確に描くことが、持続可能な清掃活動の鍵となります。

5S活動の成功事例

・製造業における実践例

5S活動は、製造業において特に効果を発揮する改善手法として広く知られています。なぜなら、製造の現場ではムダや不良が発生しやすく、整理・整頓・清掃といった基本動作が生産性に直結するためです。

例えば、ある自動車部品メーカーでは、5Sの徹底により部品の保管エリアを3割削減し、取り出し時間を平均40%短縮。結果として、日々の製造リードタイムが15%向上しました。また、不要な工具や部材を徹底して排除することで、不良品の発生率が月平均で25%減少。これにより、最終製品の品質向上とともに顧客からの信頼も高まり、売上の安定化にも寄与しています。

このような成果は、5Sを単なる清掃活動ではなく、生産システムの一部として運用していることによるものです。たとえば整頓では、工具や治具を使用頻度ごとに分類し、色分けや輪郭表示によって誰でもすぐに使える状態にしました。これにより、作業者による時間のばらつきも減少し、業務の標準化にもつながったといいます。

一方で、5Sに取り組まなかった別の製造企業では、資材の紛失や作業手順の混乱が多く発生しており、同じ規模でも生産効率に大きな差が出ています。この比較からも、製造業における5Sの有効性が実際に証明されていると言えるでしょう。

製造の現場で「ムダを見つけ、排除する」文化を根づかせるには、5Sのような全社員参加型の活動が不可欠です。

 

・サービス業での取り組み

近年では、5S活動は製造業だけでなく、サービス業界でも積極的に導入され始めています。特に、業務の質や顧客対応力を高める目的で、5Sが活用されている事例が増えています。

たとえば、ある大手ホテルチェーンでは、フロント・清掃・レストラン部門それぞれに5Sの基準を設け、作業導線の見直しや備品配置の最適化を行いました。これにより、チェックイン業務の待ち時間が短縮され、顧客満足度が向上。さらに、従業員の動作が効率化されたことで、業務負荷の軽減にもつながったのです。

また、コールセンター業界では、机上整理・応対マニュアルの整備・定期的な清掃活動を通じて、従業員の職場環境を改善。これにより、社員のストレス軽減と業務への集中力が高まり、応対品質が向上したという報告もあります。

サービス業における5Sの効果は、単にオフィスがきれいになることにとどまりません。業務の見直しと同時に、社員や従業員の意識改革を促進し、個人レベルの改善活動が企業全体のパフォーマンスを底上げする好循環を生み出します。

このように、5S活動は業種を問わず、企業における基盤づくりの要として機能します。導入に成功している企業の共通点は、「全員参加」「目的の明確化」「継続的な仕組みづくり」という3点です。他社事例から学び、自社でも応用することが、継続的な業務改善と競争力強化の鍵になるでしょう。

5S活動推進のためのステップ

・組織の合意形成

5S活動を推進するうえで、最初に必要なのは組織全体の合意形成です。どれほど優れた改善策があっても、現場の理解と協力なしには浸透せず、定着もしません

まず重要なのは、全体に共通するルールを明確に定めることです。どの作業にどのような5S基準を適用するのか、どの頻度でチェックするのかなど、曖昧さを残さないルールづくりが求められます。このルールは会社全体で共有される仕組みとして、マニュアル化や掲示物によって「見える化」しておくことが効果的です。

また、5Sの運用を円滑に進めるには、チーム内のコミュニケーションを強化し、現場ごとの声を吸い上げる体制を整えることも重要です。一方的にルールを押し付けるのではなく、現場と一体となって「どう進めるか」を決めていくプロセスそのものが、組織全体の協力意識を高めるカギとなります。

5Sは一部の部署だけで完結するものではなく、全体を巻き込む活動です。合意形成の段階から「全員参加型」で取り組むことで、会社としての一体感が生まれ、仕組みが継続的に機能する基盤となるのです。

 

・教育・訓練の実施

5S活動を実現させ、成果につなげるためには教育と訓練が不可欠です。特に導入初期や、新たなメンバーを迎えたタイミングでは、「何のために5Sを行うのか」「どう取り組むのか」を全員が理解する機会を設けることが大切です。

まず、管理者が教育内容をしっかりと計画し、目指す行動レベルを明確化します。単なるスローガンの共有にとどまらず、日常の作業の中でどう5Sを反映させるのかを、内容として丁寧に落とし込むことがポイントです。

次に、教育を行う際には、座学だけでなく実践的な作業を組み合わせることが効果的です。たとえば、整理整頓のビフォーアフターを体験させたり、実際に作業場を見て課題を挙げるワークなどを取り入れることで、理解度が深まり、記憶にも定着します。

さらに重要なのは、従業員一人ひとりが「自ら取り組む」意識を持つよう促すことです。そのためには、管理者側が一方的に「やらせる」のではなく、主体性を引き出し、発揮できる環境を整える必要があります。現場での工夫を歓迎し、改善提案がしやすい雰囲気をつくることで、5S活動が「やらされる」ものから「自分ごと」に変わっていくのです。

教育と訓練は単発で終わるものではなく、継続的に行うことで5S文化を根付かせる礎になります。計画的な研修と現場実践のバランスを取りながら、5Sが自然と日常の一部となる環境づくりを目指しましょう

トヨタの5S教育

5Sチェックリストの活用法

・チェックリストの作成方法

5S活動を継続的に推進するうえで、チェックリストの活用は非常に効果的な方法です。目に見える形で活動の進捗を確認でき、誰でも同じ基準で評価を行えるようになります。

まず最初に行うべきは、チェックリストの目的を明確にすることです。たとえば「現場の安全性を高めるため」「業務効率を改善するため」など、何のためにチェックを行うのかという考え方を共有することで、リストの作成にも一貫性が生まれます。

次に、具体的な項目を一覧でリストアップします。このとき、「床に不要物はないか」「工具が所定の場所に戻っているか」といった、誰が見ても判断できる内容にすることがポイントです。曖昧な表現は避け、できるだけ客観的に評価できる方式でまとめましょう。

また、チェック項目には優先順位(ランキング)を付けて整理することも効果的です。影響度が高い項目を上位に配置することで、限られた時間でも重点的に取り組むべきポイントが明確になります。たとえば、「安全に直結する内容は最優先」「清掃や整頓は定期ルーチンに」など、用途ごとの分類を加えて作成すると、現場での活用度がさらに高まります。

このように、目的→一覧化→優先順位の設定という3つの手順をしっかり踏むことで、実用性の高いチェックリストが作成できるようになります。継続的に見直しを加えることで、人気のある改善手法として社内にも定着しやすくなります。

 

・定期的なフォローアップの重要性

5S活動を「一度きりのイベント」にせず、継続的な習慣として定着させるためには、定期的なフォローアップが欠かせません。チェックリストによる確認を実施するだけでなく、その評価結果をもとに改善点を明確にし、次に活かす仕組みが必要です。

たとえば、月1回の5Sパトロールを実施し、評価基準に沿って点数を付けたり、写真でビフォーアフターを記録したりする方法は、多くの企業で採用されています。評価を「見える化」することでチーム全体の意識が高まり、活動の質が向上していきます。

さらに、定期的な評価を通じて「ここは良くなった」「次はここを改善しよう」といった継続的な改善の流れが生まれます。これがいわゆるPDCA(計画→実行→評価→改善)のサイクルにあたり、5Sを日々の業務に落とし込むうえで非常に有効です。

このときに忘れてはならないのが、モチベーションの維持です。小さな改善でもしっかりフィードバックを行い、称賛や感謝の言葉をかけることで、メンバーの意欲が保たれ、続ける力になります。「もちろんできて当たり前」ではなく、「しっかり続けていること自体が価値あること」と認識する姿勢が大切です。

5S活動は継続してこそ意味があるもの。だからこそ、フォローアップを「習慣」として根づかせ、日々の行動の中に自然と組み込むことが、成功の鍵を握ります。

5S活動のメリットと課題

・コスト削減の効果

5S活動の大きなメリットのひとつが、業務のムダを削減することで実現するコスト削減効果です。特に、作業時間の短縮や不要な在庫・スペースの排除は、目に見える形で経営に良い影響をもたらします

トヨタの5Sによるコスト削減

 

たとえば、ある製造業の企業では、5Sの導入により部品の検索時間を1日平均30分削減。これにより、月間約600時間分の作業効率が向上し、人件費の削減につながりました。また、倉庫整理によって不要在庫の削減を実現し、年間約200万円のコスト削減に成功したという事例もあります。

このような効果は、単にキレイにするだけでなく、「探す」「移動する」「待つ」といったムダを減らす5Sの本質を実践した結果です。とくに「整頓」と「清掃」がしっかり機能すると、製品のキャンセルやミスによるやり直し作業が減るため、業務全体がスムーズに流れるようになります

もちろん、5S活動には「毎日の清掃や点検に手間がかかる」「導入初期に慣れるまで時間がかかる」といったデメリットも存在します。しかし、その手間を上回るほど、長期的には良く機能する仕組みとして定着するケースが多く、多くの企業が継続的に5Sを取り入れている理由でもあります。

つまり、5Sによるコスト削減効果は、一時的な結果ではなく、日々の積み重ねによって持続可能な成果を生み出すものなのです。

 

・導入に伴う障壁

5S活動は多くのメリットをもたらしますが、導入段階ではさまざまな障壁に直面することも少なくありません。最初の課題としてよく挙がるのは、「現場に浸透しない」「不要なルールと感じられる」「継続しない」といった現場の理解不足やモチベーションの低下です。

とくに「今のやり方を変えたくない」という抵抗感が根強い場合、活動が形骸化してしまうリスクもあります。また、「忙しくて時間がない」「評価基準があいまい」といった理由で、導入が進まないケースも多く見られます

こうした障壁を乗り越えるためには、導入の進め方を戦略的に設計することが重要です。まずは、5Sの意義やメリットを分かりやすく解説し、現場にとっての意味を伝えること。次に、小さな成功体験を積ませることで、自発的な改善意識を醸成することが効果的です。

さらに、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した5Sの推進も注目されています。たとえば、タブレットでの写真記録、クラウド上でのチェックリスト管理など、デジタル技術を取り入れることで、最初のハードルを下げ、作業の見える化を加速させる工夫も有効です。

実際にある中小製造業では、5S活動とDXを連動させることで、現場の納得感を高めながら作業標準化と効率化を同時に実現しました。このような成功事例を参考にすることで、自社に合った5S導入のヒントが見つかるはずです

5Sはただ「取り入れる」だけでなく、「どう進めるか」が成功のカギを握ります。課題を正しく捉え、段階的に進めることで、着実に成果へとつながっていくのです。

5Sと在庫管理システムの関連性

・在庫管理における5S活用例

在庫管理の現場では、「必要なときに、必要な商品が、すぐに取り出せる」ことが理想とされます。この理想を現実にするために、5Sの考え方は非常に有効です。とくに整理・整頓・清掃を中心とした仕組み作りが、在庫管理の精度と効率を大きく向上させます。

たとえば、ある物流倉庫では、商品を置く棚に定位置管理(置き場と品目を固定化)を導入し、「homeポジション」として色分けとラベル表示を徹底。これにより、作業者が商品を探し回る時間が激減し、1人あたりのピッキング時間を30%以上短縮しました。5Sによって、使用頻度が高いものは手前、低いものは奥に配置するという工夫もされ、さまざまな業務効率化に成功しています。

さらに、在庫台帳やシステムと実在庫の不一致をなくすために、毎朝5分間の棚チェック(清掃と在庫確認を兼ねる)をルール化。こうした「見える化」により、使いかけの商品や誤出荷のリスクも大幅に減少しました。

このように、5Sは在庫管理において以下のようなステップで効果を発揮します:

  1. 整理:使用頻度の低い商品や不要な梱包材を排除
  2. 整頓:取り出しやすい配置・表示を行い、探し時間を削減
  3. 清掃:商品棚や保管エリアを常に清潔にし、異常や破損の早期発見を促進
  4. 清潔:上記の状態を保つためのルール化と管理体制の構築
  5. 躾(しつけ):スタッフ全員がルールを守り、自律的に行動できる文化を醸成

これらの取り組みによって、在庫ミスの削減、作業時間の短縮、保管スペースの有効活用など、5Sは在庫管理のあらゆる場面で力を発揮します。

トヨタの5Sによる在庫管理

 

・5Sが在庫管理を円滑にする理由

では、なぜ5Sが在庫管理を円滑にするのか。その理由は、5Sが持つ「整える」「見える化する」「維持する」という3つの特徴が、在庫管理に求められる要素と完全に一致しているからです。

まず、整理・整頓によって在庫の配置や流れが一元管理されることで、不要在庫の発生やロスが防止されます。そのため、商品の回転率が上がり、在庫が滞留するリスクも軽減されます。

また、清掃や清潔の徹底により、在庫や商品そのものの品質も上がるというメリットがあります。ホコリや汚れを排除することで、破損や劣化を防ぎ、品質管理の信頼性が向上します。

そのため、結果として誤出荷の削減や、返品・クレームの低減につながり、販売機会の損失が減るという効果も期待できます。商品が常に良い状態で保たれていれば、顧客満足度が上がるだけでなく、在庫の回転もスムーズになり、売上アップにも寄与するのです。

つまり、5Sは在庫を「単に保管する」から「販売につなげる資産」として活かす仕組みを支える土台なのです。
このように、品質と業務効率、販売成果のすべてを高めるための重要な仕掛けとして、5Sは在庫管理のあらゆる場面で役立っています。

新技術が5S活動に与える影響

・IoT技術の活用方法

近年、製造業や物流業界では、IoT(モノのインターネット)技術の導入が進み、5S活動との融合が注目されています。特にIoTデバイスを活用することで、工場内の設備や作業環境の状態をリアルタイムで把握し、即座に対応する体制が整えられるようになりました

たとえば、自動車工場では、温度・湿度センサー、設備の稼働状況センサー、作業員の動線を可視化するタグ付きセンサーなどが導入されており、作業のムダや異常を即座に検知することが可能になっています。これにより、従来の「経験と勘」に頼った5S活動から、データに基づく改善が可能な仕組みへと進化しています。

また、製造過程を見える化するアイデアとして、IoTカメラをラインに設置し、製品がどこで滞留しているのか、どの工程でミスが多発しているのかを分析できるようにする取り組みも進んでいます。こうしたやり方を取り入れることで、効率的な作業計画や工程の再設計が可能となり、5Sの「整頓」「清潔」に新たな視点が加わります。

そして忘れてはならないのが、活用されたノウハウやデータをチームで共有することです。IoTの導入はツールを使うだけで完結するものではなく、「使い方の共有」「改善方法の統一」「トラブル時の対応」などをチームで議論・蓄積することが、組織の力を高める大きなポイントになります。

このように、IoT技術を5Sに取り入れることで、現場の改善活動がさらに進化し、より実践的かつ戦略的な5S活動が可能になります。

 

・デジタルツールによる効率化

5S活動をより効果的・効率的に進めるうえで、無料で使えるデジタルツールの活用は強力な手段となります。特に、作業手順の「見える化」や「標準化」を支援するツールは、導入のハードルが低く、すぐに現場に取り入れられるというメリットがあります。

たとえば、GoogleスプレッドシートやNotion、Trelloなどの無料ツールを使えば、5Sチェックリストの共有や進捗管理が簡単に行えます。写真付きで「ビフォー・アフター」を記録したり、改善点をデータベース化することで、過去のノウハウが蓄積され、継続的な改善につながります

また、作業記録や清掃履歴などをスマートフォンから簡単に入力できるようにすれば、現場での負担も軽減され、実施率が自然と高まります。こうした簡単で使いやすいツールを自分で選び、ダウンロードして取り入れることが、継続的な5S活動の鍵となります。

さらに、作業手順を動画や画像で記録し、社内マニュアルとして共有する手段も注目されています。これにより、新人教育の時間短縮や、作業の質の均一化が実現され、5Sの「躾(しつけ)」に大きく貢献します。

つまり、自分に合ったツールを選び、チームの運用に最適化することが、5S活動の効率を最大限に高める手段なのです。「アナログだけでは限界がある」と感じたら、今こそデジタルの力を活用するタイミングです。

トヨタの5Sをデジタル化

5Sと持続可能な経営

・環境保護と5Sの関係

5S活動は、職場環境の改善や業務効率化にとどまらず、環境保護にも深く関連している取り組みです。たとえば「整理」によって不要物の削減が進めば、廃棄物の発生を抑制でき、「清掃・清潔」によって職場の劣化や資源の浪費を防ぐことができます。

2025年以降、世界的に環境への配慮がより強く求められる時代に入る中で、企業活動と環境の両立が経営課題としてあっという間に顕在化すると予測されています。こうした問題に対し、5Sは「日常の行動の積み重ね」で対応できる、非常に実用的な手法といえるでしょう。

具体例として、あるメーカーでは、部品の在庫を「必要な分だけ」に抑える5Sルールを導入した結果、年間で約2トンの廃棄削減を達成。包装材の見直しにもつながり、プラスチック使用量の30%削減にも成功しました。これはまさに、日常業務への5Sの適用が環境負荷軽減に直結した好例です。

さらに、AI技術の進展により、設備やエネルギー使用量の可視化が進み、環境への配慮がよりしやすくなってきています。AIを活用して清掃の頻度を最適化したり、廃棄物の傾向を予測することで、より効率的かつ持続的な5S活動が可能となるのです。

このように、5Sはただの作業改善ではなく、環境問題に対応する企業文化の形成にも貢献できる仕組みとして、今後ますます注目されていくと考えられます。

トヨタの5Sは地球にやさしい

 

・持続可能性への貢献

企業が持続可能な経営を実現するためには、5Sのような日常の積み重ねが不可欠です。整理・整頓・清掃などの基本動作を通じて、省資源・省エネルギーが進み、長期的に環境負荷の少ない経営体制を築くことが可能になります。

ある印刷業の事例では、5S活動によりインクや紙の使用量を見直し、年間約15%の資材コスト削減を達成。さらに、省エネ型照明の導入と合わせて、電力使用量を10%削減したという成果が得られています。これらはすべて、現場の取り組みが積み重なった結果として実現されたものです。

このような対策は、企業単体の努力だけでなく、取引先やパートナー企業との連携によってさらに効果を発揮します。たとえば、物流業界では納品・出荷のルールを共有し、パレットの共通化や無駄のない配送スケジュールを整備することで、全体のCO₂排出量削減に貢献する事例もあります。

また、こうした活動はESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsの観点からも評価され、企業ブランドの価値向上や採用強化、投資家への信頼獲得にもつながります

5Sは単に社内の効率を高めるだけではありません。**継続的に取り組み、成果を可視化し、社内外に共有することで、持続可能な社会に貢献できる「戦略的活動」**となるのです。ぜひ自社でも、「続けること」の価値を信じて、一歩ずつ5Sの取り組みを強化いただければと思います。

トヨタ式の5S活動を学べるリソース

・参考書籍の紹介

5S活動を深く学びたい方にとって、実用的な書籍の活用は非常に有効です。以下では、事例が豊富で内容が分かりやすいと評判の書籍を厳選して紹介します。

トヨタ流「5S」 最強のルール
~生産性“劇的向上”ノウハウを2時間のストーリーで学ぶ~
』(原マサヒコ 著/大和書房)

拙著で恐縮です。この書籍は、トヨタ式5Sの現場での実践方法をストーリー形式でわかりやすく解説しており、5Sそのものを学びたい人にとって最適なガイドといえます。書店を舞台にして実際の事例が豊富に盛り込まれ、「5S」がどのように利益を生むかを明快に説明しています。

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https://www.haramasahiko.com/5s

 

・講演会やセミナーの情報

書籍と並んで有効なのが、最新の事例やノウハウが学べる講演会やセミナーへの参加です。これらのイベントは、現場での悩みをリアルに共有できる貴重な学習の場でもあります。

わたくし原は、5Sの講演依頼サイトから依頼をいただいて、全国の企業様に対して「トヨタ流5S」の講演を実施しております。下記は一例です。

もしご依頼を希望される場合には下記の専用サイトをご覧のうえ、お気軽にご相談くださいませ。

     ↓↓↓

https://5s.haramasahiko.com

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