トヨタの現場ではいつも「なぜ」と問うことを求められましたし、「なぜ」と問われることが数多くありました。

「なぜ」と問うことは、言い換えれば「事実をありのままに、頭を白紙にして見る」ということだと思います。

想定外のことが起きたときに、「運が悪かった」とか「相性が合わなかった」などと自分勝手な解釈で済ませてしまうことは良いことではありません。「なぜそれが起きたのか」と問うことで、問題の真因が見えてくるというわけです。

ただ、真因を探っていくと、どうやら原因は自分のせいではなく他人のせいだと分かることもあります。そんなとき、そこで問題追求の手をぱったりと止めてしまう人が少なくありません。

普通の人であればそう動いてしまうかも知れません。原因が自分にあるなら解決策を考える必要がありますが、原因が他人だとすれば、そうは思わないでしょう。解決は他人がやるべきであって、自分がよけいな口を出し、知恵を貸す必要はないと考えてしまうものです。

しかし、トヨタにはそういう考え方は存在しません。それでは問題が解決しないからです。

問題の真因探しが進まない理由の一つに、こうした責任の押しつけ合いがあります。問題は原因と結果が複雑に絡んでいます。単純に自分のせいではないなどと言い切れないはずなのです。「そっちのせいだ」「そっちこそ」などと皆が他人のせいにして誰も問題のホルダーにならないようでは、問題解決以前の話です。

また、トヨタでは、何か問題が起きたときには解決するまで現場を離れられないことがよくあります。私がいたメカニックの現場でも、どうしても修理がうまくいかないケースがありました。そこでその場を何とか取り繕って納車をしてしまうなどというのはただの『修繕』であり、お客様に大きな迷惑を掛けてしまう恐れがあります。必ず根本原因を見つけだして解決しなければ、次に進むことができないのです。

それは自分が担当する車だけでなく、誰が整備している車でも同じでした。問題が起きると、あっちこっちから先輩が近寄ってきて「どうした?」と声を掛けられます。これは、全員が問題のホルダーであるという意識の高さを表しています。

また、仕事が順調に進んだときも「5回のWHY」を繰り返すことを求められました。順調にいっている時は手放しで喜びたいものですが、そこでも「WHY」と問うことで成功のプロセスが明確化できるからです。プロセスを明らかにすれば、再び同じ状況が訪れたとき、成功を繰り返すこともたやすいというわけです。

例えば自動車開発の場面においても、問題なく走る完成車を一度全てばらして部品を確認しています。これは「なぜ問題なく走ったのか」を突き詰めているからです。

成功要因も明確にしているからこそ、トヨタという会社は巨大になった今でもなお、成長を続けることができているのではないかと考えます。

 

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