仕事というのは一人で完結するものではありませんよね。どんな仕事であれ、発注してくれる人がいたり、指示をしてくれる人がいたり、引継ぎをしてくれる人がいたり、手伝ってくれる人がいます。
トヨタの現場では、「自分の仕事のひとつ前の工程を担当する人は自分ができないことをしてくれる神様であり、後の工程の担当者は大事なお客様だと思いなさい」と教わりました。
これは工場の生産ラインだけの話ではなく、営業だろうが事務だろうが同じように考えてみると、目の前の仕事を大事にしようと思えますし、相手の言葉に耳を傾ける姿勢が生まれて信頼関係が築かれていくのだと思います。
聞く耳を持つことができれば、相手の口も開きやすくなっていきます。そうやって、部署間などでもお互いにメリットのある情報交換ができるようになるということなのでしょう。
特に「後工程はお客様」という点は重要とされていました。トヨタの現場の思想は「すべてはお客様のため」が原点でしたので、「自分のため」や「会社のため」という考え方の仕事は許されませんでした。
実際、私がいた販売店でも、修理で預かる車には必ずルームミラーのところにお客名の書かれたカードをぶら下げていました。これは何のためかというと、車名ではなくお客様名で呼ぶためです。
作業中に「あそこのカローラ、前に動かして」と言うのではなく、「佐藤様のクルマ、前に動かして」など、お客様のお名前で呼ぶことが必須となっていました。そうすることで、「我々は誰のために仕事をしているのか」ということを常に意識させられたのです。
また、仕事に身が入らず雑な作業をしてしまった同僚が先輩に怒られていたこともありました。その怒られ方がとても特徴的で、「お前、誰に給料もらってると思ってるんだ」と怒鳴られていたのです。同僚はしばらく考えたあと「すいません、お客様からいただいてます」と反省していましたが、「お客様からお金を頂いていることを忘れるな」というようなことを直接的に言われながら怒られる会社は、私はトヨタしか知りません。
「お客様志向」と掲げながらも現場レベルでは特にお客様を意識していない会社が多いのではないかと思います。
製造や開発など、業種によってはなかなかお客様と接することがない方もたくさんいらっしゃると思います。それでも、毎月振り込まれるお給料の源泉はお客様から頂戴しているお金なわけですから、自らの仕事の「後工程はお客様」だ、と常に考えて日々の仕事に臨んでみてはいかがでしょうか。
この「前工程は神様、後工程はお客様」という言葉も含め、原マサヒコにカイゼン思考などの講演を依頼したい場合はこちらをご覧ください。