仕事をするうえで、どういった動きをするかという「動線」を考えることは非常に重要です。

その動線の基本として参考にしたいのが、『動作経済の原則』というものです。これは、工場を稼働させている企業ではご存知の方も多いはず。工場の人たちが動作単位の視点で改善を検討する時に参考にしているものです。

もともと作業研究の先駆者として著名なギルブレスさんという方が、ムリ・ムダ・ムラのない職場づくりのための理想的な動作を多くの視点から並べたもので、30項目以上の原則からなっています。企業などに導入される際には4つの基本動作として抽出した『動作経済の4原則』がよく用いられます。かなりボリュームがあるので端的に噛み砕いて解説をしてみましょう。

原則① 仕事をするときには両手を常に同じ業務に充てること

例えばパソコンのキーボードを打つ際に、片手だけで作業しろと言われたらどうでしょうか。非常に打ちづらいと思いますし、時間が掛かってしまいますよね。また、右手と左手で別々の作業をするというのも人間の構造的にできません。両手は動作を同時に始めて同時に終わるようにしなければならないのです。これは当たり前のことではあるのですが、仕事中に別々に動かすような機会が発生してしまうとそこで手が止まり、無駄が生じてしまうのです。

実際に整備士だった頃、このようなことは数多く経験しました。例えば、タイヤを車に取り付ける際にはインパクトレンチという工具でナットを締めていました。この作業、慣れてくるとインパクトレンチを片手で持ちながらもう一方の手で次のナットを手に取る、ということをやろうとしてしまうのですが、インパクトレンチがフラフラしてしまい、非常に危険なのです。最悪の場合にはナットを傷つけてしまったり、タイヤを取りつけられなくなったりする恐れもあります。ですから、インパクトレンチはしっかりと両手で支えて使わなければいけませんでした。

左右の手で別々の作業ができれば効率が良いかも知れませんが、実際にはミスも増えますし非効率になってしまうので「両手で同じ業務を行う」ということは非常に大事なのです。

原則② 必要な基本動作の数を最小にすること

仕事には様々な動作が含まれます。探す、選ぶ、運ぶ、動かす。そういった動作ひとつひとつの意味や必要性を考え、出来る限り減らしていくことも重要です。多くの人が使っているスマートフォンの先駆けであるiPhoneは、それまでにたくさんあったボタンをスティーブジョブズが可能な限り減らしました。それにより、「選ぶ」という行為を減らしたとも言えます。

また、トヨタの現場だけでなく製造業の現場では「5S」という言葉が必ず出てきます。

「5S」とは整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つの頭文字です。

整理……必要なものと不要なものを分類し、不要なものを捨てること
整頓……必要なものを使いやすくなるよう並べて表示していくこと
清掃……きれいに掃除をしながら、あわせて点検もすること
清潔……きれいな状態を維持する活動のこと
しつけ……整理整頓や清掃活動を維持するよう習慣づけること

このなかでも特にトヨタの現場では最初の2つのSである「整理・整頓」が徹底されているのですが、この活動によって何が起きるかというと「モノを探す」という行為が極端に減るのです。仕事をする際にその環境が整理整頓されていないと探すという行為が増えてしまい、基本動作の数を増やしてしまうからです。基本動作の数を最小にするには、「探し物をしなくてもいい環境にする」ということは必須だと言えるでしょう。

他にも、動きを減らそうとする時には、“2つ以上の動作を結合する”という方法があります。何かと何かを一緒にするということです。この辺りについては事例も交えながら詳しく後述していきます。

原則③ 個々の動作の距離を最短にすること

動作を減らして残るのは、「どうしても必要な動作」ということになりますが、その必要な動作も、距離を最短にしましょう。

腕を動かす動作が必要なら、その距離を減らせないでしょうか。足を何歩か動かすのであれば、その歩数を減らせないでしょうか。

本書の冒頭ではトヨタの先輩から「なんでそっちに歩くんだ」と怒られた話をご紹介しましたが、まさにこの動作経済の原則③に沿った「個々の動作の距離を最短にしろ」という話だったわけです。

これは個人が意識するだけではなく、環境によって変化させることも可能です。たとえば、作業する場所が極端に広ければ、どうしても歩数が増えてしまいます。支障のない限り作業場所をコンパクトにできないか考えてみるというのも1つの案です。また、材料や工具など作業に使用するものを置く場所も重要になってくるでしょう。

原則④ 動作を楽にすること

動作の距離を短くするだけでなく、“動作自体の苦しさ”を減らしていく必要もあります。たとえば姿勢によって負荷が掛かっていたり、重さが辛かったりする場合には、それらを軽減していくことを考えましょう。動作に無理がないようにするため、慣性や重力を利用して楽に動かすことはできないでしょうか。少しの負荷であっても、毎日やる動きであれば疲労がどんどん蓄積してしまい、ひどい場合には慢性的な肩こりや腰痛などに発展してしまいます。「職業病だから仕方ない」などと笑ってもいられなくなりますので、小さな負荷から潰していく必要があるのです。

以上が動作経済の原則です。仕事における動線を考える際には、これらの原則に基づいて組み立てていく必要があるのです。

 

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