仕事をしていると、「目の前の問題の解決」を進めていかなければならないことは多いと思います。では問題にぶつかった際にどう考えたらよいのでしょうか。

問題にぶつかった際、日本の企業でよく見受けられる動きとして「モグラ叩き」が挙げられるのではないかと感じています。

モグラ叩きというのは、表現を変えると「場当たり的」「その場しのぎ」とも言えるでしょう。何か問題が発生した際に、その場だけを凌ごうとして応急的な処置をしたり、自分だけが免れようとしたりして、場当たり的な対応をするような動きのことです。

皆さんの周囲には組織としての全体最適を考えず、「自分さえよければいい」という部分最適の考えを軸にして仕事をしている人や、その場しのぎの仕事をしている人はいないでしょうか。日本の多くの企業では、「忙しい、忙しい」などと言いながら、中身をよく見ていくと、ただひたすら「モグラ叩き」を繰り返しているだけ、といった例も少なくありません。

なぜ「モグラ叩き」と呼ぶかと言えば、畑で農作物を育てている時にモグラが出てきて荒らしてしまう、という場面をイメージすると分かりやすいと思います。自分の目の前でモグラが現れて、まさに農作物を食べてしまおうとしている時に、「しっしっ」とモグラを棒で叩いて追い払う、という行為はまさに「その場しのぎ」です。その時は追い払えるかもしれませんが、翌日にはまた現れて農作物を食べてしまうかもしれません。ここで考えなければならないのは、根本的な問題点です。根本的な問題は「モグラが現れてしまうこと」ですから、「どうしたらモグラがこの畑に近寄らないか」を考えなければなりません。

つまり、根本的な問題を正確に把握することが非常に重要だということです。

そうでなければ、問題ではないことを解決しようと、多くの時間やエネルギーを消費することになってしまいます。では、どのようにして「モグラ叩き」を回避し、根本的な問題に辿りつけるのでしょうか。

そこで重要になるキーワードが「なぜ5回」です。トヨタの現場では昔から、この考え方が広く伝わっています。(製造業の現場では「なぜなぜ分析」と呼ぶ会社もいるかもしれません)問題に直面した際に、「なぜを5回は繰り返せ」ということです。

「なぜ」を1度ならぶつける人もいますが、1~2回で止めずに「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」……と5回は繰り返していくことで、思考回路がまわり出し、より本質的な問題点に辿りつくことができるのです。

実際、私も現場で何度も経験しましたが、例えば新人の時にこんなことがありました。ある時、「ブレーキから音がする」というお客様が来店しました。ブレーキを踏むたびにキーキーと音がするというのです。

先輩の指示でブレーキ周りの状態を確認すると、ブレーキパッドが大きく摩耗していることに気づきます。ブレーキパッドは摩耗すると音が出るようになっているため、よくあるパターンでもあります。ブレーキパッドを交換する必要があると先輩に告げると、先輩は交換用のブレーキパッドを持ってくるでもなく、「なぜブレーキパッドは減ったんだ?」と聞いてきました。

私はキョトンとしながら「そりゃ、ブレーキを踏んだから摩耗して減ったんじゃないですか」と答えます。すると先輩は「じゃあ、なぜブレーキを踏むんだ?」と聞いてきました。私は「それは……、たくさん走ればたくさんブレーキを踏むからです」と答えたのですが、先輩は「本当にたくさん走っている?」と聞いてきます。

私は慌ててその車の走行距離を確認すると、1万キロほどでした。通常ブレーキパッドは2万~3万キロが交換目安です。メーターを見ながら固まっていると、すぐに先輩が「なぜこの距離でパッドが減っているんだ?」と聞いてきます。私は慌ててもう一度ブレーキパッドを手に取ってよく見ると、外側は大きく減っているのですが、内側は全く減っていないことに気がつきました。そう、片側だけが減ってしまう「片減り」という現象が起きていたのです。

「なぜ片減りが起きているんだ?」と必死に考えた結果、ブレーキパッドを挟み込む「キャリパー」という部品が正しく動作していないことが分かりました。結果的に、音が消えただけでなく、キャリパーを交換することでブレーキパッドの片減りもなくなったのです。

「パッドから音がするならパッドを交換しておけばいい」という考えは、モグラ叩きです。この車であれば、またすぐにブレーキパッドが片減りして音が出てきたいでしょう。そうなると、お客様も「なんでブレーキパッドを交換したのに、またすぐ音が出るんだ……」と不安になってしまいます。

こういったことを通じて、常に「なぜ?」を問いかけていなければ真の問題は見過ごしやすいものだと新人の時に学びました。このように問題点の本質に遡って真因を突き止めようとするこの姿勢を専門用語で「源流主義」と呼ぶそうですが、この「源流主義」こそが今の日本企業での日常には必要ではないかと思うのです。

いま私の周りにいる優れた経営者たちは、解決すべき問題が何かを正確に知るために十分な時間を掛けているように思います。しかし、逆に失敗してしまう一般の人は、問題を正確に把握するより前に、むやみに解決しようとしてあくせくしてしまうのです。この部分は後々大きな差になってしまいます。

実際、時価総額で世界トップクラスの巨大企業「Amazon」の創業者であるジェフベゾスも、この辺りの考え方を非常に重視しているそうです。問題が起きると徹底的に「なぜ」をぶつけるそうで、「どうしてそんなに“なぜ”をぶつけるのか」とメディアに聞かれた際、ジェフベゾスはこう答えたそうです。

起きたことに対しては、どんなことであれ、その根幹にある理由を突き止めるんだ」と。

私はまさに現場にいた人間ですが、ビジネスの世界では「現場力」というキーワードもよく耳にします。これは様々な解釈があると思いますが、私なりに思う「現場力」とは、端的にいって「3つの能力」を指していると思います。

まず「問題を発見する」力です。ただ言われたことだけをやるのではなく、何か問題があればそれに気づかなければいけません。次に「問題を提起する」力。問題に気づいても「言わない」「触れない」では、気づいていないのと同じです。「これは問題ではないか」と提起しなければなりません。そして、「問題を解決する」力。問題が発見されても、知恵や工夫が無ければ問題解決は実現しません。それぞれの現場における創意工夫こそが、問題を解決へと導いてくれるのです。

現場力を発揮して結果を出す方向へ作用させるためにも、「なぜ」を常にぶつけて「モグラ叩き」は絶対に回避しなければなりません。

 

このテーマも含め、原マサヒコにカイゼン・5S・PDCA・時短・等の講演を依頼したい場合はこちらをご覧ください。